月の国境

伊藤久男

月の国境 小夜更けて
腰の軍刀 冴ゆる時
秋水三尺 露払う
知るや男児のこの心

石の砦に攀(よじのぼり

見れば遙かな地平線
茫漠千里 滔々(とうとう)と

行くて知られぬ 黒竜江


水は流れる月は照る

俺もなりたあの月に

日本の空を宵に出て

更けりゃ昿野の屋根の上


見よや国境 皓々(こうこう

銀に輝く 明月の

ただ一点の曇りなき
きりや男児のこの心




戻る